オランダの病院で、1999~2003年に分離された黄色ブドウ球菌株の0.6%がメチシリン耐性であった。2004~2007年にはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)株の割合は1.1%に上昇したが、欧州平均(23.7%、欧州抗菌剤耐性サーベイランスシステム:EARSS-network(現EARS-Net)による数値)と比較すると依然として大幅に低い。
2004年および2005年に、ある畜産業従事者とその家族が黄色ブドウ球菌に感染・治療後、再感染したことから、畜産業とMRSAの関連が初めて明らかとなった。後に、その農場のブタに同じ遺伝子型のMRSA株が定着していたことが判明した。2006年にはオランダの31ヶ所のブタ農場でスクリーニング検査が実施され、7ヶ所ではブタにMRSAが定着していた。自主的にスクリーニング検査を実施した22人の畜産業従事者のうち、11人にMRSA定着が確認された。分離株はすべてPVL(Panton-Valentine leukocidin)陰性であり、PFGE法ではタイピング不可能であった。この調査で注目すべき点は、最初にはMRSA陰性であったブタが、呼吸器系疾患へのオキシテトラサイクリン治療によりMRSA保菌状態となったことが挙げられる。
畜産業従事者とそれ以外の人とを比較したフランスの研究によると、動物との接触により黄色ブドウ球菌保菌者となる可能性が高い。畜産業従事者の黄色ブドウ球菌感染率(44.6%)はそれ以外の人の感染率(24.1%)に比較して高かった。オランダやデンマークの症例対照研究により、急速に増加したST398 型MRSAの感染源はブタであることが証明された。また、オランダのとさつ場で動物のMRSA感染率を推定したところ、9ヶ所のとさつ場の54バッチから10頭ずつ無作為抽出してスクリーニング検査した540頭のブタのうち、44バッチ(81%)の209頭(39%)がMRSA陽性であった。全サンプルがST398型であり、PVL陰性であった。
家畜、畜産業従事者およびとさつ場のブタがMRSA陽性であったことから、オランダの食肉のMRSA汚染率を調査した。小売業者の多様な種類の食肉サンプルについてMRSA汚染率を検査したところ、11.2%が陽性であった。七面鳥(31.3%)、鶏(27.3%)、子牛(16.8%)、豚(10.4%)の食肉で汚染率が高かった。検査したMRSA分離株のうち84%(138検体中116検体)がST398型であった。
食品はMRSAの媒体となるが、MRSA感染食肉の消費はさほどのリスクではないと考えられている。なぜなら、加熱によりすべての細菌を死滅することができると考えられ、また黄色ブドウ球菌は食肉表面にのみ存在するとみられているからである。しかし、特に食肉を取り扱う労働者では、生肉からの直接感染リスクが考えられる。ミクロコッカス属の標準種であるMicrococcus luteus感染については既に評価されており、0.06%と低率であるものの、ハンバーガーから手指への感染が発生することが示されている。
本研究では、専ら生肉製品を扱う職業に従事する人について、MRSAおよびMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)への感染リスクを評価した。

[本研究の結果]
調査は2008年3~7月に実施し、調査対象は、日常的に生肉を取り扱い、かつ業務の一環として生きた家畜と接触することのない人で、2ヶ所の病院施設の厨房スタッフや3ヶ所の食肉加工施設のスタッフであった。無作為抽出による対象者101人のうち89人について、採取した検体(鼻腔スワブ、手指リンス液)の検査結果や質問票への回答結果を得た。サンプル採取日に不在だった者(n=2)、食肉と接触しなかった者(n=4)、質問票に回答しなかった者やオランダ語、英語を読むことのできなかった者(n=6)、計12人は除外した。男女比は均等ではなく、男性が80%であった。年齢は26~56歳であり、オランダ出身者は68人、他の欧州国出身者は13人、欧州以外の国の出身者は8人であった。41人がペットを飼っており、農場に居住している者や家畜を飼育している者は少なかった(n=4)。食肉処理室や厨房に入る際はオーバーオールの作業着を全員が着用していた。80人は日常業務中に保護具(ヘアネット、手袋、オーバーオール)を着用していた。9人が調査前6ヶ月の間に抗生物質を使用していたが、使用薬剤名(アモキシリン)を記憶していたのはそのうちのわずか1名であった。11人の参加者が調査前6ヶ月の間に入院しており、3人は複数回入院し、海外で入院していた人も1人いた。調査集団中10人が慢性疾患に罹患していた。
手指や鼻腔からの検体はいずれもMRSA陰性であったが、31人はMSSA陽性であった。採取サンプル数から計算すると、食肉取扱業者のMRSA感染率は95%の信頼度で3%未満であることが示された。参加した食肉取扱業者から提供された食肉サンプルのMRSAスクリーニング検査も実施されたが、35サンプル中5サンプルがMRSA陽性であり、その内訳は豚肉(n=2)、子牛肉(n=1)、鶏肉(n=2)であった(表)。MRSAの最確数は食肉1gあたり0.06~10以上であった。

PCR法にて確認したMRSA陽性サンプルをオランダのブドウ球菌属リファレンスセンターに送付し、spa(staphylococcal protein A)タイピングとMLST(multi-locus sequence typing)を実施した。4分離株(子牛肉1サンプル、豚肉2サンプル、鶏肉1サンプル)の遺伝子配列型はST398型でspa型はt001型であり、鶏肉サンプルの1分離株はST9/t1430であった。
今回の研究では、調査対象者における食肉への高頻度な曝露においても、測定可能なMRSA感染リスクはみられなかった。今回の調査では調査対象人数、すなわち検出力に限界があるものの、一般のオランダ人の生肉との接触によるMRSA感染リスクは最大限に見積もっても食肉取扱業者と同等か、もしくは数オーダー低いと考えられる。食肉取扱業者は生肉に毎日何度も接触するが、一般市民の接触頻度は通常、日に1回以下である。したがって、食肉取扱業者の感染率の上限値(3%)を一般市民にあてはめると、それよりはるかに低い推定値に相当し、これはオランダ人の感染率が0.03%であるとした以前の報告(2004)に合致する。

http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19712    

                                         国立医薬品食品衛生研究所より