2010.10.4 英国食品基準庁(FSA: Food Standards Agency)

英国食品基準庁(FSA: Food Standards Agency)は10月4日、第4回年次報告書を公表した。報告書は2009年4月から2010年3月までのFSAの食品安全に関する科学的活動を対象としているが、今年度は特にカンピロバクターに焦点をあてている。
(以下、2009/10年次報告書の食品微生物関連情報の一部を要約)
食品由来疾患:現在の課題
英国全体において、細菌、ウイルス、寄生虫、その他の不明な物質に起因する食品由来疾患患者数は年間約100万人、入院患者数は2万人、死亡患者数は500人と推定されている。2000年のFSA設立以来、食品由来疾患の低減が食品安全確保上の主要な目的のひとつであり、2005年までに食品由来疾患の発生率は大幅に低下した。しかしながら2005年以降、発生率に有意な変化は観察されておらず、英国における食品由来疾患のコストや負担は依然として大きい。
モニタリングの進捗状況
食品由来疾患の経時的な傾向をモニターする上で確定患者数と報告患者数は最も重要であるが、全患者が報告されるわけではないため、食品由来疾患の報告数は実際の発生数よりも少ないことが知られている。このため、英国健康保護庁(HPA: Health Protection Agency)はイングランドとウェールズにおける食中毒の実際の年間患者数を推定している。推定にはアウトブレイクに関する情報や1990年代に実施された大規模感染性腸疾患(IID: Infectious Intestinal Disease)研究等を使用している。IID研究はイングランドに限って実施されたため、現行の推定計算はイングランド、およびサーベイランスシステムが類似しているウェールズにおいてのみ適用可能であり、英国の他の地域には適用できない。データの更新を目的とした第二次IID研究が英国全土において実施され、2010年後半には結果が報告される見込みである。
2008年にイングランドおよびウェールズにて発生した5種類の主要な病原体による食品由来疾患について、病原体ごとの患者推定数および死亡患者推定数が全体に占める割合を図2および図3に示した。5つの主要な病原体とは、サルモネラ(Salmonella)、カンピロバクター(Campylobacter)、リステリア(Listeria monocytogens)、大腸菌O157(E. coli O157)、およびウェルシュ菌(Clostridium perfringens)である。患者推定数はカンピロバクター(80%)が最も多く、321,200人(入院患者推定数は15,100人、死亡患者推定数は80人)であった。一方、死亡患者推定数はリステリア(35%)が最も多く、130人(患者推定数は350人)であった。

図2: 食品由来疾患の主要な原因病原体ごとの患者推定数の全体に占める割合(イングランドおよびウェールズ、2008年)

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図3: 食品由来疾患の主要な原因病原体ごとの死亡患者推定数の全体に占める割合(イングランドおよびウェールズ、2008年)

傾向
英国の2009年の暫定データでは、5種類の主要な食品由来疾患病原体について検査機関で確定された62,138人の患者が報告されている。これらの患者は英国内での感染であり、英国外への旅行とは関連していないと考えられている。2009年の英国内感染の総計は2008年に比較して13.2%増加した。
カンピロバクター
カンピロバクター症患者数は、2002年の減少を除き、2000年~2008年は概ね一定であった。しかし、2009年の暫定データにおいては、患者数の著しい増加が観察され、確定患者数は2008年の44,842人と比較して、2009年は52,529人(17.1%増加)であった。この増加傾向は英国全土で見られた(スコットランド:31%増、北アイルランド:18%増、イングランドおよびウェールズ:15%増)。この増加が、実際の発生数の増加か、報告数の増加か、その両方によるものかは明らかでなく、今後調査を進めていく予定である。2008年にイングランドおよびウェールズで発生したカンピロバクターによる疾患患者は約32万人と推定されている。
サルモネラ
サルモネラ症の確定患者数は2008年の8,542人に比較して、2009年は8,023人であり、6%減少していた。英国の発生率(10万人あたりの報告数)は2000年以降に多少の変動があったものの、一定のゆるやかな減少傾向が観察されている。2008年にイングランドおよびウェールズで発生したサルモネラによる疾患患者は27,000人を下回ると推定されている。
大腸菌O157
英国の大腸菌O157確定患者数は2008年の1,096人に比較して2009年は1,159人であり、約6%増加していた。この患者数には、2009年のオープンファームや動物園における大腸菌O157アウトブレイクのような食品に関連しない患者数も含まれている。これらを考慮すると、全体として食品由来疾患の発生数に大きな変化はないとみられる。2008年のイングランドおよびウェールズでの大腸菌O157患者数は約1,050人と推定されている。
リステリア
2000年以降、英国のリステリア症発生率は多少の変動はあるものの大きく増加しており、現在は2000年の倍である。2009年の確定患者数は226人であり、2008年の205人から10.2%増加した。各年の患者数は他の病原体に比較して少ないものの、入院が必要な患者数は非常に多い。また、全患者の約3分の1が死亡している。これらのことから、リステリアは重要な食品由来疾患病原体であり、その効果的な管理/予防が英国の食品由来疾患被害の顕著な減少につながるものと考えられる。2008年にイングランドおよびウェールズで発生したリステリアによる疾患患者は約360人と推定されている。
ウェルシュ菌
毎年の確定患者数は非常に少なく(2008年は202人、2009年は201人)、報告患者数のわずかな変化が見かけ上は疾患発生の大きな変化としてとらえられることになる。ウェルシュ菌は通常のサーベイランスでは検出されにくく、この菌によるヒト疾患に関してサーベイランスから得られる情報はあまりない。ウェルシュ菌およびその毒素を検出するためには専門家による検査が必要とされる。年間報告患者数が少数であることも考え合わせると、ウェルシュ菌に関する報告患者数や患者推定数から信頼性のある情報は得られない。
カンピロバクターに関する詳細
本年の報告書では、カンピロバクターに焦点をあてている。FSAの主要な優先対策のひとつは、鶏のカンピロバクターに対する取り組みである。カンピロバクターは胃腸感染症の原因菌として英国では頻繁に報告されている。主症状は下痢で、腹部のけいれんおよび不快感を伴って重症化し血便の症状を呈することもある。
カンピロバクターは家禽、赤身肉、未殺菌牛乳、未処理水で検出されることが多い。英国におけるヒト食品由来感染症の感染源は主に鶏であることが示されている。カンピロバクターは食品中では増殖しないが、生の鶏肉片から手指、器具もしくは表面等を介してそのまま喫食可能な(ready-to-eat)食品へ容易に拡散し、食中毒を引き起こす。
HPAが実施した症例対照研究のデータ解析から、カンピロバクター感染率に年齢層による変化があり、近年では高齢者が高リスク集団になっていることが明らかとなった。60歳以上の高齢者のカンピロバクター症発症は、1990年から2007年までに3倍以上増加した。この傾向は性別、季節、地理的要因に依存しておらず、非腸チフス性サルモネラ症やクリプトスポリジウム症では観察されていないことから、人為的な影響(artefact)を受けたものではないと考えられる。この増加と関連するリスク因子を調査するために、HPAはイングランドの5つの健康保護ユニット(HPU: Health Protection Unit)が実施した症例対照研究データをさらに解析した。この研究にはカンピロバクター属菌感染の成人の確定患者データが含まれている。リスク因子は、大まかに8項目(健康状態の詳細、職業暴露、ペット飼育、水、レクリエーションにおける暴露、食品の喫食、食品の調理、世帯状況)にグループ分けされた。60歳以上の高齢者の疾患増加に関連するとされたリスク因子には以下のようなものがあった:健康要因(例:胃酸抑制剤の服用によるリスク増加の可能性)、家庭における食品安全対策、単身世帯かどうかなどである。
鶏肉のカンピロバクター汚染率
2009年10月、鶏肉のカンピロバクター汚染率の調査結果が発表された。調査は2007年5月~2008年9月に実施され、英国で販売されている鶏肉3,274検体(英国産および輸入品、冷蔵品および冷凍品)のカンピロバクターおよびサルモネラの汚染が調査された。英国で小売りされている鶏肉全体のカンピロバクター汚染率は927検体中の65%であり、英国産の鶏(丸ごと)では416検体中の76%であった。またカンピロバクター汚染率は冷凍肉よりも冷蔵肉の方が高かった。カンピロバクターの分離株における抗菌剤耐性(キノロン耐性も含む)の出現頻度は、2001年の調査に比べて増加していた。サルモネラの汚染率は検査サンプルの約6%であり、依然として低かった。
リステリア:更新情報
昨年度の年次報告ではリステリアに注目したが、2009年6月の食品安全週間の一環として、FSAは60歳以上の年齢層に向け、消費期限を過ぎた冷蔵食品は使用しないこと、0~5℃で確実に冷蔵保存すること、食品表示の保存方法に従うことなどの助言を行った。高齢者のリステリア症増加に関する食品微生物学的安全性諮問委員会(ACMSF: Advisory Committee on the Microbiological Safety of Food)の報告書が2009年9月に発行され、推奨事項として、欧州全体にわたるサーベイランスならびに疫学的・微生物学的調査、リステリア株の病原性調査、60歳以上の年齢層の食品消費動向情報の収集、60歳以上の年齢層への食品安全に関する助言、リステリア汚染防止のための温度管理・消費期限管理・衛生管理等が示された。
2009年のケーススタディ
2009年の大規模かつ複合的な食品由来疾患の発生事例には卵に関連したサルモネラ症が含まれていた。2009年秋、HPAは、特定の型のサルモネラによるヒトの患者報告数が増加していることを確認した。英国およびスペインにおける調査から、スペインのある特定の供給業者の卵の喫食が関連している可能性があることが判明した。2009年9月1日~12月31日の期間、イングランドおよびウェールズにおけるSalmonella Enteritidisファージ型(PT)14b NxCpl 感染患者489人がHPAに報告された。このうち155人は、高齢者介護施設および異なる食品提供施設に関連する16件のアウトブレイクの患者であった。これらの施設の一部では、スペインの供給業者の卵を使用していた。

http://www.food.gov.uk/news/newsarchive/2010/oct/chiefscireport           

                                             国立医薬品食品研究所より