株式会社北海道チクレンミート
品質保証部

はじめに

 先進国といわれるアメリカやイギリスなどでは、毎年食中毒による死亡者は米国疾病予防管理センター(US CDC)の報告では3000~5000名、英国食品基準庁(FSA: Food Standards Agency)の報告では500名ほどと推計値として報告されている。これに比べわが国の食中毒統計は届け出によるが、食中毒による死者数は毎年0から数名といったところだ。この差は明らかに大きくわが国の食品の安全性は世界でも間違いなくトップであると考えてもよいだろう。

 しかしながら、マスコミ報道による食品の様々な異常に対する報道は後を絶たず、特に食品中の異物混入は消費者にとっても大きな衝撃となっている。某大手ハンバーガーチェーンはその異物混入及びその報道により経営にも大きな影響を及ぼしている。

 また、近年ではペヤングソース焼きそばの虫混入をはじめ兵庫県の弁当・給食製造業者は多くの異物混入が発覚し、自力での再建を断念した。帝国データバンクによると、負債総額は約73000万円の見通しのようだ。

 このように、我が国においては食品中の異物混入の問題は他の先進国と比べても敏感な状況であると考えられ、食品メーカーとしてこの問題には真剣に取り組まなければならない状況がある。そして近年では異物混入対策をテーマにした多くのセミナーが開かれ、また各メーカーは異物混入対策の充実が望まれている。

 そのような中、弊社では食肉製品はもちろんカレーやスープに至るまで多くの食品を製造している中でお客様からの苦情をいただくことも決して少なくない。そこで、FSMSの構築を進める中で原料由来や工程内における異物混入を防止する対策はもちろんであるが、製品中の異物の混入を見つけ出し、決して工場からそのような製品を出さないという工程内検品対策を考え実施した。その結果、非常に顕著な結果が確認されたことからここに報告することとした。

 

検品能力の検定準備

 弊社の多くの製品については、完成するまでの加工工程において数か所の検品工程が存在するが、従来はその担当者については特別な能力を求めてはいなかった。そのため、同じ苦情を発生させてしまうこともしばしばあり、なかなか検品の精度及び感度が上がらない状況が続いた。

 そこで、私たちはFSMSの要求事項に従って従業員の力量について検討し、検品能力の検定を行うこととした。この目的は、一つに従業員の検品能力を上げること、二つ目に従業員の意識を上げること、三つ目にそもそも従業員の検品能力の差はどのくらいあるのかを確認することなどである。

 まず、弊社において発生が最も多い異物混入の原因物質及び混入の可能性がある物質4品(毛髪、硬骨片、ビニール片、金属片)を決定した。

次に、弊社において製造している多くの製品の中で最も均一になり、再現性の高い製品としてひき肉を用い、この上に上記4品をランダムに置いたものを検定に使用した。

 

検品能力検定の実施

 検定を行う場所の照度については、それぞれ700ルクスと1500ルクスのグループに分けて行った。700ルクスと1500ルクスの検品場所は工場が異なるが、供試サンプルは同じものを用いた。

検定を行った従業員の年齢の幅は10代から60代まで広く、矯正視力も両目合計で0.2~3.5まで大きなひらきがあった。

 まず、一人ずつ供試サンプルを見せる前に検定の仕方について説明し、供試サンプルを見せてから4品すべてを指で差し見つけた時までの時間を測定した。

 

検品能力検定の結果

 ○年齢と検出時間の相関

   検定に参加した従業員65名の年齢と彼らが供試サンプルから異物をすべて検出するまでの時間についての相関係数は、0.227 であり、顕著な相関は確認されなかった。

 ○視力と検出時間の相関

検定に参加した従業員65名の矯正視力と異物検出時間の相関は-0.123であり、視力と異物検出能力に相関は確認できなかった。

 ○照度の違いによる検出時間に対する有意の差

   検定を実施した場所の照度を700ルクスと1500ルクスについてそれぞれ26名で行った。その検出時間平均値は700ルクスで24秒、1500ルクスで21秒であったが、検定の結果では有意水準5%において有意の差は認められなかった。 

 

検品能力検定後の異常苦情発生状況

 弊社における異常苦情処理記録から、検定前の6か月と検定後の6か月で異常発見状況を比較すると、異常発見率は検定後で43%増加したのに対し、お客様からの苦情については、検定前を100%として検定後ではその発生が13%までに激減した。

 

検定結果の考察

 食品製造現場においては、男女、年齢、視力など様々な従業員によって食品製品が製造されていくが、その中で食品中の異物を検出し取り除く工程は、現在の我が国の食品製造においては欠かすことができない非常に大切な工程となっている。特定の製造ラインが決まっている製造施設では、検品工程においては熟練の従業員によって配置されており、その検品能力が発揮されている。しかしながら、多くの中小食品工場においては、製造工程の多くの個所で検品が必要となり、従業員一人一人の検品能力が問われることにもなる。

 そこで、今回の異物検品能力検定において、作業員の年齢による違いはそう大きくはないことが確認された。つまり、熟練従業員と新人従業員の差がないことになる。

 また、従業員の視力についても、検出時間との間に相関はほとんどなく、必ずしも視力がある人の方が異物を見つけやすいということが言えないことになる。つまり、異物を検出する能力は、年齢でも視力でもなく個人の異物を見つける集中力のような特殊な能力があることになる。

 さらに、検品場所の照度による影響については、700luxよりは1500luxの方で平均3秒ほど検出時間が短く、照度による影響が考えられたが、検定において有意の差がなく個人差による影響が大きいと考えられる。

 以上のような検品能力検定を行った後、弊社の検品工程にはできるだけ検品能力検定結果の良い従業員を配置させることにしたところ、製品の異常や異物の発見が非常に増加し、その結果、お客様からの苦情が激減した。

この現象は、検品工程以外でも異常の発見率が上がっていることから、検品能力が高い人によるばかりではなく、検定を行ったということによる従業員全体のモチベーションアップも相乗効果として考えられる。そこで、今後は定期的にこのような検定を行っていくことも重要であると考えている。

また、今回の異物検品能力検定においては、ある一定の食材(ひき肉)についての異物検出能力を評価したものであるが、食材が異なることによる異物検出能力の違いも考えられることから、今後もさらにいろいろな食材についての検品能力検定を実施しながら、製品の品質向上に向け努めていこうと考えている。