近年の食中毒パターンとその対策

 

はじめに

 昨年は、食品衛生の話題として大きく取り上げられたのが、牛生肉による食中毒

の問題である。

ユッケによる集団食中毒をきっかけに、昨年10月に生食用牛肉の新基準施行で、

ユッケが厳しい衛生基準を満たさない限り提供できなくなったのに続く対応とし

て、厚生労働省は、今年6月にも、生の牛レバー(肝臓)を「レバ刺し」などとし

て飲食店が提供することを法的に禁止する方針を決めた。

 厚労省の食中毒統計によると、牛の生レバーが原因とみられる食中毒は、昨年1

年間に飲食店で12件起きて、その原因菌は腸管出血性大腸菌とカンピロバクター

であった。

 また、我が国で発生している多くの食中毒の内、生肉によると考えられる事件数は全体の2%前後(23年厚生労働省統計)(1)であり、むしろ加熱処理した又は

 

はずの食品によって発生している事件がほとんどである。

 さらに、食中毒の原因物質については全体の約70%以上(図1.)がキャンピ

ロバクター・ノロウイルス・サルモネラ・腸管出血性大腸菌という100個以下の摂

取でも食中毒になるという少量感染菌であり、過去5年間で見ると、食中毒原因物

質の86%が少量感染菌によるものである。また、患者数で見ると全体の40%以上

(図2.)がノロウイルスによることなどを見ると、決して牛生肉ばかりが特別で

はない我が国の食中毒傾向が見えてくる。

 そこで、食品を製造、販売する業者としては、少しでもこれらによる食中毒リス

クを減少させることが必要であり、現在の我が国における食中毒パターンに対して

どの様な対策が適切かつ効果的なのかということについての理解が必要となる。

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要注意の少量感染微生物

 従来、食中毒は食品中で多量に増殖(10万個から100万個)した病原菌を摂取

して、引き起こされるものと考えられていた。ところが、腸管出血性大腸菌O157

による食中毒が出現するようになってから、他にもサルモネラ、カンピロバクター

など、10 cfu(生きた細菌数)から100cfu程度のごく少量の菌数、また、ノロウ

イルスでは数pfu(生きたウイルス数)という少量のウイルス数によっても発症す

ることが分かってきた。

 以下に、そのような少量感染微生物の現状とリスクを回避するための適切かつ効

果的な対策について述べる。

・腸管出血性大腸菌 

腸管出血性大腸菌については、昨年だけでもO111、O26、O104そしてO157と

いった種類の血清型が日本やEUなどで目立って発生し、ドイツを中心とするEUに

おいては新種ともいえるO104が50人もの死者を出し大きな国際問題にまで発展し

た。

 我が国では昨年、腸管出血性大腸菌による25件の食中毒が発生しており、ユッ

ケによる事件が血清型O111であった。その25件の内、ユッケなど生肉による食中

毒発生件数は3件のみであるが、10名の食中毒死亡者の内7名がこの生肉による腸

管出血性大腸菌を原因物質としていた。また、この年、腸管出血性大腸菌による食

中毒事件の発生率は2%(図1.)であり、患者数は3%(図2.)であったが、死

者数で見ると全食中毒死亡者数の70%となり、この細菌による食中毒が発生した

時の重篤性の高さをうかがわせる。

  食品安全委員会による「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル」(2)

 

おいても、一人当たり2~9cfu の菌の摂取で食中毒が発生した事例があることが

わかり、O157 が高い感染性を有することを示す結果となっている。

 したがって、発生率から考えるとリスク評価は比較的低く考えられるが、その重

篤性から評価するとかなりリスクは高いと考えなくてはならないだろう。

 昨年、この細菌が原因物質となっているユッケによる食中毒で死亡者を出したチ

ェーンレストランは、昨年中に解散してしまった。つまり、腸管出血性大腸菌によ

る食中毒を出してしまった時には、その関係企業にとっても従業員の雇用の喪失な

ど非常に重大な問題となりうるということだ。

 しかし、食中毒を施設別に見ると、約60%(図3.)が飲食店での食事が原因

となっているが、腸管出血性大腸菌による食中毒について年による違いが大きく、

55%~約80%がいわゆる飲食店が原因であり、その他は老人ホームや給食施設

関係であった。このような傾向から、必ずしも腸管出血性大腸菌による食中毒が発

生するのは、焼き肉店ばかりではなく一般の飲食店やその他の施設によることも多

いことがわかる。したがって、そこから考えられることは、腸管出血性大腸菌によ

る危害は、一時汚染によるものばかりではなく、原料からの二次汚染によることも

多く考えられるということだ。

 つまり、腸管出血性大腸菌の汚染率が最も高い肉を扱う厨房や工場においては、

原料管理はもちろんであるが、二次汚染の可能性を極力排除しなければならない。

 昨年9月まで、生食用食肉の衛生基準(平成10年9月11日付 )を基に、と畜が

実施されており、生食用として流通が可能であったが、ユッケの事件からこの基準

(ガイドライン)は、昨年10月1日付けで罰則のある「牛の生食用食肉の規格基準」

(3)に格上げされた。これによって牛の生食用の食肉については、かなりリスク

 

は軽減されたはずであるが、一般に流通している牛食肉については、今まで通りで

ある。牛食肉に限らず全ての食肉には、腸管出血性大腸菌が付着していることを前

提とした考え方に基づいた対策が必要であり、自分が扱っている肉はきれいなはず

だという錯覚は禁物である。1000分の1~2mmという目には当然見えない小さ

な細菌が数個付着しているだけでも感染が起こりうるということを忘れない教育も

必要になるだろう。

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サルモネラ

 昨年の厚生労働省食中毒統計でみると、サルモネラの食中毒事件における原因食

品についての一貫した傾向は全く見られない。サルモネラの一般的な汚染食品と言

えばやはり食肉であり卵と言われてきたが、近年のサルモネラ食中毒の原因食品に

ついては、確かに飲食店が多いが、不明も多く発生施設の範囲はかなり広範囲(図

4.)となっている。これは原料からの一時汚染による食中毒の発生というより

も、周りの環境からの二次汚染が多くなっていると考えられる。

 原料食材からの二次汚染を防ぐことについては、各食材の取り扱い方法につい

て、ハザード分析を行い確実にハザードを避ける手順を明確にするなどの対策が必

要となる。このようなハザード分析や手順書を適切に実施・作成するためには、少

なくとも微生物学の知識がしっかりなくてはならない。いままで、著者は多くの食

品製造現場を見てきたが、この分析が適切に出来ていない為に、手順が徹底されて

いない状況の施設に良く遭遇している。これらの施設や会社は、少なくとも自分た

ちの職場が食中毒発生原因施設候補となっていることに気が付いていないのだろ

う。

 少量感染菌については汚染量が少なくても感染力を持っている。つまり、少量感

染菌であるサルモネラは、10℃の保管であれば充分に増殖が可能であり、さらに

その感染力は急激に増してしまう。

 したがって、やはり気温が上昇する季節になるに従ってサルモネラの食中毒が増

加していることから、サルモネラによる食中毒と原料食材の温度管理とは、大変リ

ンクしていることがうかがえるということであり、原料食材の低温管理が出来てい

ればかなりこれによる危害は減少させることが可能と言えるだろう。食材の冷蔵管

理については、冷蔵保管を一般には10℃以下と表示しているために、原料食材が

流通の過程などで10℃近くで保管されていることがあるが、この危害を減少させ

るためには少なくとも4℃以下場合によっては2℃前後を確保することが必要とな

る。

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 カンピロバクター

  近年、ノロウイルスと並んで毎年食中毒の上位を争っているのがカンピロバク

ターである。この細菌は、他の食中毒菌と比較すると少しナイーブなところがあ

る。それは、微好気性といってわずかな酸素が存在するところでしか発育できない

というところである。酸素が多くてもまた、無くても生育することはできない。し

たがって、生肉の表面などはちょうどその酸素のバランスが保たれているために、

ほとんどが生肉に汚染して存在している。しかし、この細菌は30℃以下では増殖

せず、生肉などの食品中でも増殖しないとされていることから、鶏や牛などの腸管

にもっていたカンピロバクターが鶏処理場やと畜場において肉に汚染し、そのまま

食品としてヒトが摂取するまたは加熱不足や二次汚染などによった食品を摂取する

ことによって食中毒の発生となっている。これは、食中毒の発生施設の多くが生肉

や焼き肉を提供する飲食店であり、23年食中毒統計(図5.)からも理解でき

る。

 つまり、カンピロバクター食中毒の原因食品のほとんどに鶏肉を中心とした肉の

存在がある。その中には、鶏生レバーや鶏刺身また、牛レバーなどが最も直接的で

あるが、鶏肉などを用いた食材の加熱加工品においても、提供直前の二次汚染や加

熱不足などによる食材があげられる。特に、鶏生肉を取り扱うときの手順について

は、しっかりとしたハザード分析と手順の明確化が最も大切となる。 

 何よりも、市販の鶏肉におけるカンピロバクターの汚染率はかなり高く(表

1.)、鶏肉にはカンピロバクターが付着していることを大前提とした対策が必要

となり、食品を提供する業者にとっては、カンピロバクター食中毒のリスクを軽減

させるために、少なくとも温度管理よりもこれらの関係する食材の取り扱い方につ

いて、十分考慮した手順に基づいた作業が必要だ。

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表1.平成22年度食品の食中毒菌汚染実態調査(集計結果) 厚生労働省

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 ノロウイルス

 毎年、カンピロバクターと食中毒原因物質の上位を占めているのがノロウイルス

である。カンピロバクターとは反対に冬場を中心として年間を通じた食中毒の発生

がみられ、原因食品の多様さにおいては、他の食中毒原因微生物とはかなり異なっ

ていると考えられる。

 まず、ウイルスであることから、他の病原細菌とは異なり細胞を持っていないこ

とから、自分自身では増殖できず、ヒトの空腸上皮細胞に感染し増殖する。インフ

ルエンザがヒトの喉や気管支のみで増殖するのと同じように、ウイルスの増殖には

特異性があるためにこのような他の細菌とは全く異なり、特定の場所または細胞で

しか増殖が出来ない。

 つまり、食品中では全く増殖が出来ないので、食材の低温管理による効果は全く

期待できない。そこで、ノロウイルス食中毒の原因食品にはどのようなものがある

かというと、カキやシジミなどの近海の二枚貝がたくさん持っていることはすでに

多くの人が知るところであるが、実際にこれらの食品が原因となった食中毒は昨年

でも14%(図6.)とそう多くはない。むしろノロウイルスの食中毒原因食材は

一般には細菌性食中毒では考えられないパンなどをはじめケーキから果実やサラダ

に至るまで多種多様であることから、原因食不明が55%にもなっている。

 では、どこからこのような汚染が発生しているのだろうかということになるが、

上でも述べたように、ノロウイルスはヒトの空腸(小腸の一部)でしか増殖しない

ため、ヒトの便中には大量のノロウイルスが含まれていることがあるということに

なる。しかも、症状が出なくてもノロウイルスを持っている健康人は冬場であれば

10%前後いると言われており、十人以上の職場であれば一人はノロウイルスを持

っていることになることから、このような食品取り扱い施設については、トイレの

清潔な使用管理が重要となる。

 文部科学省で出している、学校給食法(4)には給食に従事する従業員のトイレ

 

の個室には手洗い設備を設けることになっています。(写真1.)これは、子供は

免疫力が低いために特にノロウイルスの食中毒になり易いため、このように食材を

取り扱う従業員のトイレから決して外部にノロウイルスを持ち出さないという考え

方によるものであり、この対策が最も効果的であると考えられています。

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まとめ

 近年発生している食中毒には一つのパターンがある。それは発生している食中毒

の原因微生物が、わずかな汚染が食中毒の原因となる腸管出血性大腸菌、サルモネ

ラ、カンピロバクターおよびノロウイルスといった少量感染微生物によることだ。

カンピロバクターについては、要注意対象食材がほとんど決まっているので、これ

らの食材の取り扱い方をしっかりと確立することだ。

 ノロウイルスは、食材の低温管理では解決できない微生物であり、何よりもトイ

レから作業場にノロウイルスを持ち込まないことが最も効果的な対策と言える。

参考資料

 (1)平成23年食中毒発生事例:厚生労働省

 (2)「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル」:食品安全委員会 

2010年4月

 (3)「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」 :厚生労働省 

2011年9月12日

(4)学校給食法「学校給食衛生管理基準」:文部科学省 2009年3月31日改正

                                            

               食品環境安全ネット事務局   池亀 公和