連載 食中毒菌と人と健康①

2011年10月4日(火)


 


食中毒菌と人と健康

人の腸管内には腸内細菌叢と呼ばれ、多種類の細菌が住みついていますが、健康な成人ではこれらが

バランス良く保たれているため、外からの病原菌を増殖させないなど感染症を引き起こしにくくしてい

ます。

ところがこのバランスが崩れたり、老化などにより乳酸菌の占める割合が減少したりすると、口から入

った病原微生物(赤痢菌、チフス菌、サルモネラ、病原性大腸菌、カンピロバクターなど)によって、

発熱、腹痛、嘔吐、下痢を始めとする腸管の急性症状が発現し、腸管感染症となります。なお、これら

の感染症が飲食によって発生した場合を食中毒として扱われています。

日本では近年、食中毒原因菌の多様化、食中毒の大型化が注目されています。これらの背景として、も

ともと日本は亜熱帯地方に位置する環境にあることに加え、輸入食品の増大、人工の都市集中、外食産

業の普及などがあげられています。

世界全体で、病原微生物による食中毒による死亡者は、ほとんどが小児または老人であり、年間百万人

を超えるといわれています。勿論そのほとんどが発展途上国といわれている国々です。なぜ発展途上国

にこのような犠牲者が多いかというと、必ずしも食品衛生レベルが低いからだけではなく、食材そのも

のの供給が充分ではなく、栄養素のバランスは勿論カロリー自体が充分ではないのです。従って、この

ような国では、衛生レベルを議論するよりも、満足できるカロリーと栄養素のバランスを整えて、免疫

力を高めることから考えなければなりません。

小生が、ODA(政府開発援助)のJICA専門家としてケニヤの中央医学研究所にいた平成元年頃、近く

の病院にはぐったりした小児を抱えた母親が長い行列を作っており、中にはすでに亡くなっている小児

も居ました。まさに日々の犠牲者を目の当たりにしましたが、いずれも下痢がひどく栄養失調気味であ

り、衛生を議論する以前の問題であることを痛切に感じました。

このように食品衛生を考える時には、病原菌の排除だけではなく、病原菌に打ち勝つ免疫力も非常に大

切な要素となります。

したがって、生活環境の回りに病原微生物が多いからといってそれが単純に食品衛生のバロメータには

なりません。食中毒はそのきっかけになる病原微生物と宿主である人の免疫力によって発生するのです。

病原菌を人が摂取しても必ずしも食中毒にはなりません。それは病原菌にもそれぞれ毒力の差が大きく、

食べてもなかなか発症しにくい病原菌から非常に強力な病原菌まで存在しています。

また、我々の免疫力も千差万別で、小児や老人または病人は免疫力が低下していますし、我々が発展途

上国へ旅行に行くとすぐ下痢をするなど、発展途上国の人よりも場合によってはむしろ先進国の我々の

ほうが免疫力が低いと考えられる部分もあります。 

私たちが食品の安心安全を考えるときには、ただ一方的に病原菌をなくすことだけを考えるのではなく、

我々も強くなることを考えなくてはなりませんね。 

 

                                 食品・環境安全ネット事務局  池亀公和