健康を維持するため病原菌に打ち勝つ

 日本では近年、腸管出血性大腸菌など食中毒原因菌の多様化、また食中毒の大型化が注目されていま

す。これらの背景として、もともと日本は亜熱帯地方に位置する環境にあることに加え、輸入食品の増

大、人工の都市集中、外食産業の普及などがあげられています。

 世界全体で、病原微生物による食中毒による死亡者は、ほとんどが小児または老人であり、年間百万人

を超えるといわれています。そしてそのほとんどが発展途上国といわれている国々です。なぜ発展途上国

にこのような犠牲者が多いかというと、必ずしも食品衛生レベルが低いからだけではなく、食糧そのもの

の供給が充分ではなく、栄養素のバランスは勿論カロリー自体が充分ではないのです。従って、このよう

な国では、衛生レベルを議論するよりも、満足できるカロリーと栄養素のバランスを整えて、免疫力を高

めることから考えなければなりません。

 小生が、ODA(政府開発援助)のJICA専門家としてケニヤの中央医学研究所にいた平成元年頃、近く

の病院にはぐったりした小児を抱えた母親が長い行列を作っており、中にはすでに亡くなっている小児も

いました。まさに日々の犠牲者を目の当たりにしましたが、いずれも下痢がひどく栄養失調気味であり、

衛生を議論する以前の問題であることを痛切に感じました。

 このように食品衛生を考える時には、病原菌の排除だけではなく、病原菌に打ち勝つ免疫力も非常に大

切な要素となります。免疫力と一口に言ってもその内容は多種多様です。 

 私たちが免疫力を高めるためには、まずは栄養バランスと乳酸菌などの補給、睡眠、適度な運動、前向

きな思考など様々ありますが、先進国のわれわれにとってもそれらを満足させることは難しいことです

ね。例えば、人の腸管内には腸内細菌叢と呼ばれ、多種類の細菌が住みついていますが、健康な成人では

これらがバランス良く保たれているため、外からの病原菌を増殖させないなど感染症を引き起こしにくく

しています。

 ところがこのバランスが崩れたり、老化などにより乳酸菌の占める割合が減少したりすると、口から入

った病原微生物(サルモネラ、病原性大腸菌、赤痢菌、カンピロバクターなど)によって、発熱、腹痛、

嘔吐、下痢を始めとする腸管の急性症状が発現し、腸管感染症となります。なお、これらの感染症が飲食

によって発生した場合を食中毒として扱われています。

 食中毒はそのきっかけになる病原微生物と宿主である人の免疫力との戦いの末に発生するのです。した

がって、病原菌を人が摂取しても必ずしも食中毒にはなりません。それは病原菌にもそれぞれ毒力の差が

大きく、またその時の食べた人の免疫力や食べた量などによっても体内でその戦いの勝敗が異なってくる

からです。つまり、弱い又はわずかな食中毒菌ぐらいには勝てる体力(免疫力)がほしいですね。

 私たちは、病原菌をなくす食品衛生ばかりを考えるのではなく、自分自身を強くすること、つまり保健

も考える事を忘れてはいけません。

          

                                 食品・環境安全ネット事務局 池亀公和